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村上龍『走れ,タカハシ!』 [小説]


走れ,タカハシ! (講談社文庫)

走れ,タカハシ! (講談社文庫)

  • 作者: 村上 龍
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1989/05/08
  • メディア: 文庫



ちょっと風変わりな11の作品からなる小説集である。

著者本人によるあとがきによれば
「広島カープの高橋慶彦選手はファーストベースにヘッドスライディングしてもそれが様になる日本でも珍しいタイプのプロ野球選手である」
と、高橋慶彦選手をべた褒めである。
しかし、個々の小説の主人公は高橋慶彦選手ではない。

著者本人によるあとがきによれはこの作品は
「軽快なスポーツ小説を書いたつもり」なのだそうだ。
つもり…
なぜ「スポーツ小説だ」と断言できないのか。
それはこの小説群がスポーツ小説に分類するには「?」印が付くからだ。

『走れ、タカハシ!』というタイトルとスポーツ小説というふれこみを真に受けてこの本を手にした人はがっかりするだろう。


この作品に登場する人物はいささか自意識過剰のおしゃべりなちょっと怪しい、そしていやらしい人物たちであり
書かれているのは登場人物たちが繰り広げるちょっとおかしなエピソードである。

そしてタイトルにもなってあとがきでべた褒めされている高橋慶彦選手は
話の脇役に過ぎない。

しかし、

タカハシが走れば…タカハシが走れば…
登場人物たちは自らの欲望をタカハシが走ることによって満たされるかのように口走る。

そしてタカハシは走るのか?走ることもあればアウトになることもある。
時には電話に出たりお店を訪ねたりしてタカハシ選手もサービス精神旺盛だ。
まぁ、タカハシの結果はどうでもいいのだ。


この作品群が書かれた1980年代中盤。まだ日本がプロ野球を中心に回っていた時代。
しかし、プロ野球界では長嶋、王という大スターが抜け巨大なドーナッツのようになていたプロ野球。
日本人はドーナツの穴を埋める選手を探していた。
期待の原辰徳はONの穴を埋めるには物足りない存在であった。

1960~70年代の勤勉な日本人が長嶋、王に重ねた人生。
1980年代、経済成長の恩恵を十分に受け勤勉が価値の中心ではなくなった時代。
その時代のヒーローの形。

著者はそんな形をタカハシに見出したようだ。
高橋選手の容姿と運動能力そして「何より野球を楽しんでいる姿」
そう、そこに見出すのは決して努力型のヒーローではない。

個別の作品は脇役に過ぎない高橋慶彦選手だが、
全体を読み通せばまぎれもない主人公であるという仕掛けがしてあるのだ。




蛇足ながら当時の広島の対戦相手の監督がセキネ監督だったり
エンドウが投げたりと、野球ファンもちょっとは楽しめる場面もある。


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岸本 佐知子『なんらかの事情』 [エッセイ]


なんらかの事情

なんらかの事情

  • 作者: 岸本 佐知子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2012/11/08
  • メディア: 単行本



この本は面白い。
しかし、説明しようと思うとなかなか上手く伝えられない。

落語や漫才を見たあとその面白さを伝えようと
身振り手振りを交えて懸命に説明しても
どうやってもその臨場感を伝えられない。
伝えられないどころか、「そんなのが面白かったわけ?」
なんて言われてしまったりする。

この本の面白さを伝えようとするとそんな光景が頭に浮かんでしまう。

岸本さんによって展開される文章はエッセイという形をとりながら
SFだったりミステリーだったりもする。
冗談のようでもあるが真実のようでもある。
本気なのかふざけているのかもわからない。
ただ喫茶店でお茶を飲みながら表情も変えず淡々と日常を語っているようでもある。

そもそもこの世の人なのかもわからない。
もしかしたら岸本ワールドがこの世界と対峙する場所にあって
そこから地球を見ながら書いているのかもしれない。

説明不能摩訶不思議な岸本ワールド。

伝えられない面白さはぜひ読んで味わって欲しい。










荒川博『王選手コーチ日誌1962-1969』 [野球]


王選手コーチ日誌 1962-1969 一本足打法誕生の極意

王選手コーチ日誌 1962-1969 一本足打法誕生の極意

  • 作者: 荒川 博
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/06/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




このところよく目にする光景がある。
若い人たちが王貞治の若いころの写真を見て
「王さんって野球やってたんだ!」
「王さんって巨人の選手だったんだ!」
「ええ?これ王さん??」
と一様に驚くのだ。

王さん。
名前は知っているがどういう人かはよく分からない。
そんな人たちが増えているのは間違いない。

わたしなんかにとってはもう隔世の感もいいところである。

そうなれば当然、荒川コーチのことなどは知るすべもないということになってしまう。

王貞治を知っている世代にとって、荒川・王を巡る師弟のエピソードの数々は
「常識」であったはずなのだが。

だが、その常識が忘れられつつある時代にこんな本が出た。

荒川博氏自身が書き記したノートからは
我々が知っていた「常識」以上にこの師弟のやり遂げたことは凄まじかったことが解る。

王貞治の伝説はまた一つ新たな側面を語られることになった。





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池波 正太郎『江戸の味を食べたくなって』 [食と酒]


江戸の味を食べたくなって (新潮文庫)

江戸の味を食べたくなって (新潮文庫)

  • 作者: 池波 正太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/03
  • メディア: 文庫




池波正太郎の食のエッセイの最高峰と言えば
散歩のとき何か食べたくなって (新潮文庫)
であることは言うまでもない。
そこに繰り広げられる池波ワールドはまさに我々のバイブルである。

資生堂パーラー、藪蕎麦、竹むら、煉瓦亭、前川、重亭等々、どれだけこの本で知って食べ歩いたことか。
何度読んでも飽きず、何度訪ねても食べ飽きず。
池波ファンは池波正太郎と同じように食べ歩くことを生涯の目標としていると言っても過言ではあるまい。

池波正太郎没して20年だそうである。

今年の春、新潮文庫よりこの本が出た。
池波正太郎の文庫化されていない食についての文章を1冊にしたものである。

あちらこちらの出版社で池波人気にあやかった同様の本が出続けているが、
売れると言う目算が立つ作家だからなのだろう。

生前の食についての本の物足りなさから、ついつい発売されるたびに手にとってしまう、
池波正太郎食のエッセイシリーズであるが、
読むたびに、やはり読んでよかったと思わせる力がある。

今回も聞いたことがあるような話が繰り返されるのではあるが、
いつ読んでも飽きない池波ワールドに魅了されるわけである。
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小林 明子『せやし だし巻 京そだち』 [文化]


せやし だし巻 京そだち

せやし だし巻 京そだち

  • 作者: 小林 明子
  • 出版社/メーカー: 140B
  • 発売日: 2010/04/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




時々京都へ行く機会があります。
仕事だったり、プライベートだったり。

京都は外から行く者にとっては歴史のテーマパークだと思います。

京都の町中に散りばめられた旧所・名跡。
それに伝統的な工芸や食の数々。
京都は何度行っても飽きることがありません。


さて、そんな京都でありますから、ガイドブックと名の付く本は多種多彩。
大きな書店に行けばたいがいは「京都コーナー」があるほど。


そんな数多ある京都ガイドの中でも、私が自信を持ってお勧めするのがこの本です。

「せやしだし巻京そだち」

京都中心部の呉服問屋に生まれた原作者による京文化の案内書。

いわゆる「いけず」や「けち」がこの本にはたくさん散りばめられています。
それでもほほえましい感じに満ち溢れているのは、
女の子の目を通した京都人気質だからなのでしょうか。

この本を読んで思わず「永楽屋」の「一口椎茸」を買いに走りました。
なぜ?と思う方はぜひ読んでみてください。

面白くてグルメ情報も満載ですよ。




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司馬 遼太郎『北のまほろば―街道をゆく〈41〉』 [エッセイ]


北のまほろば―街道をゆく〈41〉 (朝日文芸文庫)

北のまほろば―街道をゆく〈41〉 (朝日文芸文庫)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 1997/08
  • メディア: 文庫



『街道をゆく』シリーズもついに41巻まで読み進みました。


倭は国のまほろば

日本に稲作農業が広がった5,6世紀
望郷の念を持って大和のことをそう呼んだ。
伝説では日本武尊が呼んだことになっている。


だが、稲作が伝来する前、縄文時代にはまほろばと言うべき場所はどこであったか。
それは青森県、特に津軽地方こそがまほろまであったのではないか。

と、実に興味深い視点でこの紀行は始まります。

稲作が中心になっている今の視点・現在の史観から見ればやや違和感を覚えることではありますが、
稲作が始まる前の狩猟採集生活では、海の幸・山の幸に恵まれた場所こそがまほろばと呼ぶに相応しい。
そう考えると、冬の寒い時期でも豊富な食料に恵まれた地はとても住みやすかったに違いありません。

弥生時代以降を正史として学んだ我々にとっては目からウロコが落ちるような視点で
「北のまほろば」を見つめたこの紀行はシリーズの中でも白眉といえる作品。

日本人観がひっくり返るような内容です。

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小西 政継『グランドジョラス北壁』 [北壁]


グランドジョラス北壁 (中公文庫BIBLIO)

グランドジョラス北壁 (中公文庫BIBLIO)

  • 作者: 小西 政継
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2002/04
  • メディア: 文庫




この本を紹介するのは2回目です。

古書店主という仕事をしていると、一般の方よりは本をよく知っているだろうと思われるようで
時々、「おすすめの本はなんですか?」という内容の質問を受けることがあります。

先日もある若い雑誌編集者と飲んでいる席でおなじようなことを聞かれました。


本というのはなんでもかんでも読めばいいというものではありません。
誰に読んで欲しいのかによって当然おすすめの本は変わります。


誰に勧めればいいのかを編集者に聞くと、ある注目のトップアスリートにお勧めしたいとのこと。

ならば。

どんな分野でもある程度のレベルに達した人間に「自分探し」の本は不必要。
頂点を目指すもののみが必要とする精神というものがあるはず。
そういうアスリートたちに絶対にお勧めしたい本がこれです。


グランドジョラス北壁。
アルプス三大北壁と言われ登頂者を寄せ付けなかった山に挑むものたちの物語。
しかもこれはトップクライマー自らが語った貴重な証言です。

この本の冒頭はグランドジョラス北壁の登頂史に費やされます。
冬のアルプスに登ることが、いかに事前の研究が必要なことなのか、
一つ誤れば死が待っている極限に挑むとはどういうことなのか、
冒頭の研究からその意気込みが伝わってくる感動的なストーリーです。


これはぜひぜひあらゆる分野でトップを目指す人に読んでもらいたい。


トップアスリートに薦める前に自分で読んでみた若き編集者の証言は、
「これはすごい本でした・・・」
とのことでした。

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志賀 直哉『小僧の神様・城の崎にて』 [小説]


小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)

小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)

  • 作者: 志賀 直哉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000
  • メディア: 文庫



昨年の冬、知人から城崎に行ったという話を聞いた。
どうも、宴会でドンチャン騒ぎをした上に、蟹もたらふく食べたらしい。

冬の日本海岸で蟹食べ放題か~(ポワーン)。
ずいぶん楽しそうだ!

ということで城崎とはどういうところだろうかと気になった。
そこで思い出したのがこの小説の題名、
『城の崎にて』


そんな話を聞いた後だったものだかから、タイトルから
ついつい蟹の食べ放題を想像してしまった。

ところが読んでみると、蟹の「カ」の字も出てこない。。。。(当然か)


内容は電車に轢かれケガをした著者が療養に城崎に行き、
その療養生活の中で感じたことを書いた私小説。
蜂がどうした、鼠がどうした、蜥蜴がどうしたというものである。


同じ城崎でも随分行く人によって感じ方が違うものなのだなと、思った次第である。


志賀直哉といえば、言わずと知れた「小説の神様」

こんな読み方をされては、たまったものではないだろうね。(笑)



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ユーフラテス『あたまがコんガらガっち劇場』 [絵本]


あたまがコんガらガっち劇場

あたまがコんガらガっち劇場

  • 作者: ユーフラテス
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2009/03/18
  • メディア: 単行本




前回紹介したユーフラテスによる作品です。

こんがらがっちどっちにすすむの本は子供向けの絵本でしたが、
こちらは77編の4コマまんが。
どちらかというと大人向けの本と言えるでしょうか。

私は毎晩4歳の娘とこれを読んでいます。


数学の研究室から生まれた本だけあって、
数学や物理学モチーフが所々に散りばめられ、ちょっと知的でもあります。

この本の圧巻はカバー裏!(間違いではありませんよ~)にびっしり描かれたこんがらがっち生物全144図。
これを見るだけでもこの本を買う価値は十分にあります!


まぁ、見たことがない人にはなんのことかさっぱりわからないでしょうから、
まずは、手にとって見てみることをおすすめします。

一度手に取れば、まか不思議なゆる~い
こんががらがっちの世界にハマること間違いありません!
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ユーフラテス『コんガらガっち どっちにすすむ?の本』 [絵本]


コんガらガっち どっちにすすむ?の本 (創作絵本シリーズ)

コんガらガっち どっちにすすむ?の本 (創作絵本シリーズ)

  • 作者: ユーフラテス
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2009/03/18
  • メディア: 単行本




私は一日に5~6冊は本を読んでいます。

と言っても活字がぎっしりの本をそんなに読んでるわけではありません。

タネを明かせば・・・。

4歳の娘が毎晩本を読んでくれとせがみます。

娘は絵本の蔵書を数十冊持っていて、その中から、毎晩数冊を選んではせがむのです。
連日けっこう夜更かしで、私は本は読んでるうちに眠くなり、1~2冊ならともかく、4~5冊目ともなるとほとんど拷問です。
娘はそんな私の眠気などに関係なくとにかく読んでくれ読んでくれと。
そういうわけで私は毎晩のように5~6冊は本を読むことになるのです。



さて、そんな絵本好きな娘が今一番ハマっているのがこの本です。


作者の名前は「ユーフラテス」とちょっと変わっていますが、
このグループは慶応大学佐藤雅彦研究室の卒業生からなるクリエイティブグループだそう。
NHKテレビの『ピタゴラスイッチ』の「ピタゴラ装置」の作製でもおなじみです。


内容は、コンガラガっちという複数の生物がこんがらがってできた生き物、
その中でも「いぐら」という「いるか」と「もぐら」がこんがらがって出来た生き物が主人公で
「友達の家に遊びに行」ったり
「お昼ご飯を食べた」り
「道に迷った」りする、ちょっととぼけたお話。

脇役で出てくるこんがらがっちたちもとてもいい味を出しています。

これがけっこう大人でもハマってしまう面白いもので、
娘が「きょうはなにをよもうかな~」と迷っていると
「こんがらがっちにしたら?」
と誘導して、私が読めるように仕掛けています(笑)



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